安全衛生教育促進運動 安全衛生相談員コラム

令和7年度 安全衛生教育促進運動に寄せて

2月1日~4月30日まで、安全衛生教育促進運動がはじまります。
年度初めは教育・研修の対象者が増えるため、事業場に労働安全衛生法等により定められたものをはじめとする必要な教育・研修内容を改めて確認し、計画的に実施しましょう。


今から約30年前、労働基準監督署の方面主任だった私は、ある地方都市の公立の工業高校でガス溶接について労働安全衛生法の講師をすることになりました。
労働安全衛生法では色々な資格が規定されていますが、その中に「技能講習」があり、「フォークリフト運転業務」や「ガス溶接業務」などの資格がそのカテゴリーに入ります。工業高校等では、生徒の在籍中に各種資格を取得させようとの配慮から、技能講習が行われています。ただ、技術系の教師と設備は整っているのですが、「法令の講習」については講師資格を持つ者が不足していることも多く、講師資格を持っている監督署の職員に依頼してくることがあるのです。

私はガス溶接の業務について、年2回、各1時間講義することになりました。最初の講義の時間の前に、私は多少緊張していましたが、けっこう張り切ってもいました。生徒たちに、あれも話そう、これも話そうと色々考えていました。ところが、いざ講義が始まってみると、緊張感でうまく話せず、その上、生徒たちは私の話をまったく聞いてくれませんでした。さすがに授業妨害ということはありませんでしたが、寝るのは当たり前、私語で盛り上がり、講師は完全無視という状態でした。

考えてみれば、それもまた当然のことです。生徒たちは、教員としての教育を受けた教師から日常的に授業を受けているのです。技量が未熟で、話が面白くない私の話など、聞く価値がないと判断されても仕方ありません。私はかなり落ち込みました。反発よりも無視されることの方がより辛いことを実感し、第2回目の講義は、監督署長とも相談して、教育委員会の要請を断るか、監督署の他の人にお願いしようと考えていました。

そんな時に、管内のスーパーマーケットのアルバイトの女子高生が手首から上を欠損するという労災事故が発生しました。
精肉売り場のアルバイトだったその女子高生は、他の従業員が不在の時に、ひき肉を作るミキサーを操作しようとして、肉がなかなか入っていかないので手で肉を押し込んだ時に、機械の刃に手を挟んでしまったのです。
私は現場を調査するとともに、利き腕を失い入院中の女子高生に事情を聴きに行きました。彼女やそのご家族を思うといたたまれず、とても気が重い仕事でした。

私は二度とこのような悲しい事故をおこしてほしくないという思いから、断るつもりだった工業高校での2回目講義の依頼を受けることにしました。講義では、この女子高生の事故の話をすることにしました。労災事故について、高校生たちに関心を持ってもらい、自分事として真剣に考えてもらいたいと思ったのです。

講義では、
「みんなと同じくらいの高校生が事故にあったこと」
「事故の原因は、不注意などではなく、職場の仕事を一生懸命にやろうとした、やる気が裏目に出て起こってしまったこと」
「失ってしまった右手首から上腕は、もう一生もどらないこと」
「一緒に事情を聴いたお母さんの涙がとまらなかったこと」などを話しました。

生徒たちは、説明下手な私の話でも熱心に耳をかたむけ熱心に聞いていました。
生徒たちに話を聞いてもらうためには、「何を学ぶか」の前に「なぜ学ぶか」を説明しなければいけなかったのです。

講義が終わり、監督署へ帰るクルマを運転していたら、ラジオから「春よ、来い」が流れてきました。女子高生のお母さんが、娘はバスケットボールとユーミンが好きだと教えてくれたことを思い出し、私は曲を聞きながら、彼女の一日も早い回復と今日講義を真剣に聞いてくれた生徒たちの安全を祈りました。


令和7年2月
中小規模事業場安全衛生相談窓口

ご案内

厚生労働省の補助事業として、中小規模事業場が抱える課題や悩みの解決をお手伝いする中小規模事業場安全衛生窓口を設けております。安全衛生の専門的知見やノウハウを持った専門家が無料でアドバイスいたします。お気軽にお問い合わせください。