全国安全週間 安全衛生相談員コラム

令和7年度 全国安全週間によせて

今大阪では華やかに万博が開催されている。そのテーマは
「世界の人びとと、『いのちの賛歌』を歌い上げ、大阪・関西万博を『いのち輝く未来をデザインする場』とする」ことである。(万博HPから引用)
この世界最大級のフェスティバルの本質は、あるべき未来に対する「祈り」と「誓い」を表明し、そこに至る道筋を明らかにすることである。そして、この「祈り」と「誓い」はあらゆる「祭り」に共通するものであろう。
第一回の安全週間は大正8年に開催された。メイン会場である災害防止展覧会には皇太子殿下(のちの「昭和天皇」)が行啓され、各地でパレード・講演会が実施され、ポスターの展示はもとより、当時は珍しかった飛行機からのビラの散布が行われた。まさに最先端の祭りであったのだが、その背景には、小説「ああ、野麦峠」(山本茂実著)に描かれているような明治以来の高度成長の歪から生まれた、悲惨な労働環境を脱却しようとする社会の「祈り」と「誓い」であったことはいうまでもない。
さて、次の写真のことである。

横浜港港湾労働者供養塔(横浜市中区)

ミナトの発展に貢献され、港湾業務で亡くなられた人たちを供養するこの碑は、横浜の豪華客船のターミナルである大さん橋のふもとに建立されている。「象の鼻パーク」から「山下公園」へ向かう港沿いの美しい散歩コースの傍らの立つこの碑に、ほとんどの観光客たちは立ち止まることはなく、たまに顧みる人も訝し気な表情を浮かべる。
いつもはひとけがない碑の前に、何十人も、時には100人を超える人が集まる時がある。毎月1日の午前9時である。その時間になると、集まった人たちはこの碑に対し1分間の黙とうを奉げる。そして、その後で彼らの職場に向かう。山下ふ頭、大黒ふ頭、本牧ふ頭等、横浜港湾名物の安全パトロールの始まりである。
そのパトロールは緊張感の中にもやる気がみなぎっている。
「おい、その通路じゃ艀から落っこちるぞ」
「そのチェーンソーの使い方はなんだ」
「安全確認はきちんとしているのか」等
パトロール員は会社での職責が上の人や、現場のリーダー、労働組合関係の人もいる。みんな立場を乗り越え、災害をなくすことに取り組んでいる。
日本全国の多くの職場、多くの現場で同じようなパトロールが行われているだろう。しかし、この港湾パトロールほど、長期にわたり継続的にそのモチベーションが維持されているものは珍しい。その秘密は、パトロール前の黙とうにある。多くのパトロール委員はこの碑の前で、犠牲者のことを思いかえし、二度と事故を起こすまいと誓っているのだろう。

ここに、安全週間の原点があるのではないか。

令和7年5月
中小規模事業場安全衛生相談窓口

厚生労働省の補助事業として、中小規模事業場が抱える課題や悩みの解決をお手伝いする「中小規模事業場安全衛生窓口」を設けております。安全衛生の専門的知見やノウハウを持った専門家が無料でアドバイスいたします。お気軽にお問い合わせください。

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