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調査・研究

調査研究概要

小売業で働く人のこれからの安全と健康のために(2)-各種専門店における安全衛生対策と活動好事例に関する調査研究報告書-のポイント

本調査研究の目的・手法

近年の小売業における休業4日以上の労働災害による死傷者数を見ると、年間約12,000件に上っている。
このため平成21年度に行った百貨店、総合スーパー、食品スーパー、ホームセンター等における安全衛生対策に関する調査研究の成果を踏まえ、前回取り組んだ以外の業種・業態である機械器具小売業、その他の小売業を対象として、業態に応じた労働者の安全と健康の問題点についての把握および安全衛生対策の好事例の収集を行うとともに、これからの小売業労働者の安全と健康のための具体的実施事項およびこれを普及するための方策について検討を行った。
アンケート調査は小売業の関連団体の会員企業及び(株)帝国データバンク所有の企業データベースから抽出した合計4,000企業に対し、郵送により発送および回収し820企業から回答を得た(平成22年9月~10月、回収率20.5%)。さらに、安全衛生活動に積極的な取組を行っていると思われる6企業を選定し、訪問して、安全衛生管理の担当者に対し質疑応答を行った。

ガイドラインの表紙

要約版PDF(PDF 213KB)

本調査研究で明らかになった主な事項

アンケート調査に回答した820企業の集計結果および6企業に対するヒアリング調査結果をまとめると次のとおりである。

企業の状況について
労働災害の発生状況
アンケート回答企業820の過去3年間(平成19~21年度)に休業4日以上の業務上の災害の有無を聞いたところ、「労働災害があった」が13.9%「労働災害はなかった」が82.3%であった(図)。
ヒアリングで聞いたところ、重量物や危険物を扱わない小売業においては重篤な災害は起こりにくいが、軽微な災害としては転倒、切れ・こすれ、腰痛などがあるとのことであった。しかし、重量物を扱う場合や製造部門、自動車点検作業部門を併せ持つ場合は、大きな動力機械が起因物になって重篤度の高い災害が起こる危険性も少なからずある。
心の健康問題の発生状況
アンケート回答企業820の過去1年間(平成21年度)に心の健康問題で長期(1ヵ月以上)休業した又は退職した従業員の有無を聞いたところ、「いる」が16.5%、「いない」が81.3%であった(図)。また、回答企業820の過去3年間(平成19~21年度)の労働者の心の健康問題の発生の有無を聞いたところ、「問題が発生している」が23.2%、「問題は発生していない」が73.9%であった(図)。
ヒアリングでメンタルヘルスケアについて聞いたところ、関心が高い企業が多く、日ごろから従業員とのコミュニケーションをよくする工夫をしていたり、相談窓口を設けるなど、徐々に取組を始めている企業、さらには計画的に研修を実施している企業の例があった。
店舗の状況について
労働災害の防止
回答企業の代表的な店舗において、労働災害の防止に関する質問をしたところ、実施率が90%以上の活動は次のものであった(( )内は「はい」と答えた企業の割合。以下同様)。
  • 通路・階段・出入口等の通路幅の確保(97.2%)
  • 4S活動(95.5%)
  • 床面・通路のくぼみ・段差・水たまり(92.4%)
ヒアリングでは、チェックリストを活用して安全衛生委員会委員が職場巡視をしたり、営業マンが整理整とんや清掃の状況について定期的に確認しているという事例が複数あった。また、製造部門がある企業では、先行する製造部門の安全衛生の活動を小売部門でも同じように展開していこうとする例もあった。
心と体の健康管理
回答企業の代表的な店舗において、心と体の健康管理に関する質問をしたところ、実施率が90%以上の活動は次のものであった。
  • 従業員に対し適正な休憩時間・場所の提供(96.6%)
また、実施率が20 %以下の活動は次のものであった。
  • 心の健康問題を抱えた者への対応研修(19.1%)
  • 心の健康の知識・ストレス対処法研修(17.1%)
  • 長時間時間外労働時の医師による面接指導(10.6%)
心の健康問題の発生の有無と心の健康管理の状況を見ると、心の健康問題が発生していると回答している企業群のほうが、発生していないと回答した企業群よりも「面接指導」「ストレス対処法研修等」健康管理を実施しているとの回答率が高い状況であった。
従業員が心の健康問題について気軽に相談できる窓口(外部契約も可)を設けているかどうかを従業員数別に見ると、「はい」と回答したのは従業員数が10人以下の企業では22.8%で、従業員数が大きくなるとともにその割合が増え、501人以上 の企業では73.9%である。
また、心の健康問題で休職した人に対する復職までの仕組みが定められているかどうか従業員数別で見ると、「はい」と回答したのは従業員数が10人以下の企業では15.8%で、従業員数が大きくなるとともにその割合も増え、501人以上の企業では60.9%である。
安全衛生の体制づくり
回答企業の代表的な店舗において、安全衛生の体制づくりに関する質問をしたところ、実施率が90%以上の活動は次のものであった。
  • 従業員の安全と健康確保に対する意識(92.7%)
ヒアリングでは、産業医や看護師が従業員の相談を受ける体制を整えている例があった。安全衛生教育については集合教育をする時間を確保するのが難しいとの声が複数あり、店長会の中に労働安全衛生の時間を設け、店舗の従業員に伝達するようにしている事例があった。また、雇入れ時教育用に、パソコンで見られる動画を作成している例もあった。

報告書では、以上の調査結果を踏まえて、小売業の今後の安全衛生対策のために実施すべき事項、一層活動を活発化させるための参考となる事項をまとめ掲載している。

図 労働災害、心の健康問題の発生状況(n=820)